少し前に、ふと「人の手で握ったおにぎりは、なぜ美味しそうに感じるんだろう」と考えた事があります。そして「おにぎりの形から感じた心地よさを、デザインにも反映できないだろうか」とも思いました。これは感情に訴えるデザインをする上での、一つのコツみたいなものなのかもしれないと、そのとき私は直感的に感じました。
人のからだに直線の部分はありません。全身が緩やかな曲線で構成されています。おにぎりを握る手もまた曲線で出来ているので、手で握られたおにぎりもまた微妙で柔らかい曲線を描いています。手で握ったおにぎりというのは、すこしツヤツヤしていて、見た目も口当たりもとても柔らかいものです。コンビニで売っているおにぎりも最近はとても美味しいのですが、握るというより型に押込められてできた形からは、私はあまり心地よさを感じません。
この事に気がついてから、ロゴデザインや、パッケージデザインでも、直感的に心地よさを感じる形というのを意識する事が多くなりました。自分が心地よいと感じられない限り、他の人にその感情を引き起こす事は出来ないと思います。「固い」とか「冷たい」と感じる形は、場合によっては人の好奇心を妨げ、本来伝えたい想いを遮断させてしまいます。いきなりMacで線を引き始めると、自分の感覚にそぐわない線を引いてしまったり、自動処理による機械的な形で満足してしまったりします。最終的には図面やデータ化しなくてはなりませんが、微細な形を調整する時は自分の感覚を「信じる事と疑う事」を繰り返し行い、形と直感で向き合う事が大切だと思っています。恐らく、この「握りの行程」をおろそかにすると、どんな立派なコンセプトも伝わらない、感情のこもっていないデザインになってしまいます。
このような微細な感覚は、我々作り手より、受け手(消費者)の方のほうがとても敏感です。好き嫌いが直感的で、そして論理的にも正しいと思います。一度興味を失うと、なかなか次の行動を促す事は難しくなります。いままで色々な方の自分のデザインへの反応を見てきた経験からはそう感じます。
デザインは人から人へと想いを繋いでいく為にあるものです。自分がしているデザインが、最終的には人を楽しませたり、少しでも生活を心地よくするものでありたいと私は思っています。もしかしたら「手で握ったおにぎりの形」が、その想いを実現する何かのヒントになるのかもしれません。